【フィッシャー症候群による複視にお悩みの方へ 〜鍼灸でできるサポート〜】
フィッシャー症候群は、ギラン・バレー症候群の亜型とされる自己免疫疾患で、物が二重に見える「複視」や、ふらつき、腱反射の消失といった特徴的な症状が見られます。日本では非常にまれな疾患ですが、発症すると日常生活に大きな支障をきたすこともあるため、早期のケアが大切です。
当院では、フィッシャー症候群に伴う複視の症状に対し、鍼灸によるアプローチを行っています。鍼灸治療は、神経や筋肉の回復を促し、自律神経のバランスを整えることで、回復までの道のりをサポートしていく治療法です。
【フィッシャー症候群とは】
フィッシャー症候群の症状は、フィッシャー症候群の3主候といわれる代表的なものが3つあります。
複視
まず、ひとつは物が二重に見える複視の症状です。フィッシャー症候群にかかってしまうと初めに高い確率でこの複視の症状が出ます。これは、視神経が受ける自己免疫反応や眼筋が麻痺することで眼球を動かす筋肉が上手く働かなくなるため複視の症状を呈します。視神経が受ける自己免疫反応では視力の低下がみられたり、眼振による回転性のめまいが出ることもあります。
眼球運動は、外眼筋と言われる上直筋・下直筋・内側直筋・外側直筋・上斜筋・下斜筋の6つの働きによって複雑な運動を可能にしているのです。このどれかの筋肉に不具合が生じてしまいますとその筋肉の作用する方向の眼球運動が難しくなるため、左右の視点が合わなくなり複視の症状が起きてしまうのです。
また、常に目の焦点が合っていないような斜視の症状や機能していない筋肉を周りの筋肉がカバーしようとして目の筋肉の疲れが溜まりやすくなってしまうのです。
腱反射消失
腱反射とは身体の正常な反応の一つでわかりやすく言いますと、膝のお皿の下をたたくと足が自然と伸びるという反応です。これは腱の重要な反応であり、フィッシャー症候群の場合膝の腱反射消失が主に現れることで歩行が上手くできなくなり、歩行中にふらついたりつまづきやすくなってしまうのです。
運動失調
フィッシャー症候群は、運動ニューロンの障害によって筋肉が上手く動かせなくなったり、姿勢を保つことや四肢の痺れ、顔面神経麻痺などの症状も起きる可能性があります。
日常生活の中でもふらつきや筋力低下による歩行困難や自分で食事を摂れなくなるなど生活の質を大きく低下させてしまします。
これらの症状が重く出ている時は日常生活も一人ではままならない状態となってしまいますが、日本での症例報告によりますと日本人50人のフィッシャー症候群にかかった人の予後をみると運動失調は発症から平均1か月で消失、外眼筋麻痺は発症から平均3か月で消失したとの報告があります。トータルで見ると発症から6カ月時点で運動失調・外眼筋麻痺はほぼ消失しています。ただし、例外として軽度の複視が後遺症として残ってしまったという報告もあるようです。
【東洋医学から見たフィッシャー症候群と「肝」の関係】
東洋医学では、目は「肝」と深い関係があるとされます。「肝」は血を蔵し、気の流れ(疏泄)をコントロールし、筋肉や腱の働きを調整する臓と位置付けられています。肝の働きが弱ると、目の疲れやかすみ、視線のぶれ、筋肉のひきつれなどが生じやすくなると考えられています。
そのため、フィッシャー症候群による複視は、「肝の失調」による目や筋の不調ととらえることができます。当院ではこの東洋医学的視点から、肝の経絡やツボへの施術も組み合わせ、根本的なバランスの回復を目指していきます。
☆肝を整えるよく使われるツボ
・太衝
足の甲にあり、足の親指と人差し指の骨が交わる部分のくぼみに取ります。足の甲を軽くなでると、脈がドクドクと感じられる場所です。
◆ 効果
・肝の気を整える
・ストレスやイライラ、怒りの感情の緩和
・眼精疲労、視力の不調
・頭痛やめまいの軽減
・生理不順、PMS(女性のホルモンバランス調整)
・肝兪
背中側にあり、第9胸椎(T9)と第10胸椎(T10)の間、背骨の両脇(指2本分ほど外側)に取ります。肩甲骨の下端より少し下の位置です。
◆ 効果
・肝の働きの活性化(肝血・肝気の調整)
・目の不調、視力トラブルの改善
・怒りや緊張など感情の高ぶりの緩和
・筋肉のひきつれ、こわばりの解消
・自律神経を整える
・眠りの質の改善、情緒の安定
~当院で行う鍼灸施術~
【自律神経の調整から始める】
フィッシャー症候群では、筋力の低下やふらつき、めまいなどが生じることがありますが、その背景には自律神経の乱れが関与していることも少なくありません。治療の最初のステップとして、自律神経測定器によって現在のバランスを把握し、個々の状態に応じた施術を行います。
東洋医学においても、自律神経は「肝」の働きと深く関わっているとされ、肝が正常に機能することで、筋肉の動きや気血の流れがスムーズになります。鍼灸では、背中や手足のツボに刺激を与えることで、内側から自律神経の働きを整えていきます。
【目の周囲への鍼刺激と電気療法】
フィッシャー症候群による複視は、眼球を動かす筋肉(外眼筋)がうまく機能しないことによって起こります。外眼筋は6つの筋肉から成り、それぞれが精密に動くことで両目の視線を一致させていますが、障害が起こると視線のズレから複視を生じます。
当院では、目の周囲の特定のツボに鍼を行い、その鍼に低周波の電流を流す「鍼通電療法(パルス)」を取り入れています。これにより、眼周囲の筋肉や神経に刺激を与えて回復を促進し改善を目指します。
特に、首や肩のこりが強い方は、眼への血流や神経伝達の妨げとなるため、あわせて首肩まわりの筋緊張を和らげる施術も重要です。全身の状態を整えながら局所の改善を目指すのが、東洋医学を用いる鍼灸治療の強みでもあります。
【鍼灸の目的は「回復の促進」と「再発予防」】
フィッシャー症候群は、多くの場合、数ヶ月で自然治癒するとも言われていますが、すべての方が順調に回復するとは限りません。なかには複視が長引いたり、後遺症が残るケースも報告されています。
鍼灸治療の目的は、単に症状を抑えることではなく、自然治癒の力を引き出し、回復のスピードを高めることにあります。また、神経系・免疫系・循環系といった全身の調整を通じて、再発を防ぐ体づくりを行うことも大切にしています。